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アジャイル型行政による官民連携 ~つくば市の副市長、毛塚さんが語る

2020-03-07 15:00

新型コロナウイルスに伴う休校について、学校での自主登校の受け入れや給食の提供、更には休校中の児童生徒の自由研究をつくば市の研究者がサポートするプログラム「つくばこどもクエスチョンオンライン」を48時間で立案してサービスリリースして休校開始に間に合わせるなど独自の迅速な対応が注目を集めているつくば市。

副市長としての3年間と行政改革

つくば市副市長の毛塚さんのことを、つくば市市長は、「知力・体力・精神力に加え性格もすばらしいというすべてがそろった稀有な人材」と表現する。 27歳という若さで抜擢され、3年間つくば市副市長として活躍してきた毛塚幹人さんが語る「アジャイル型行政による官民連携」とはいったいどのようなものか。 副市長としての3年間と行政改革について毛塚さんが語って下さった。

Kezuka-san 3

つくば市の課題

毛塚さんは、つくば市の行政課題として、① 人口減少予測、② 財政縮小見通し、③ 多様な地域課題の3つを挙げた。

これらの課題は、150の研究所が集まる、というつくば市のサイエンスパークとしての特徴と密な関連があるようだ。

【人口】総人口24万人のうち、研究従事者が2万人(約8%)、博士が8千人(約3%)という特徴的な構成をもち、人口流出入も、大学就学期に大幅な人口転入、大学卒業時に大幅な転出、というように、他の自治体と異なる。

【税収面】国立の研究所が多いため、法人市民税収が全税収に占める割合は他の地方都市と比較して低く、全税収の8.6%にとどまっている。つくば市の人口は現在は急増しているが今後減少に転じる局面で税収も減少していくことが想定される。

市長がつくば市のビジョンに掲げる「世界のあしたが見えるまち。」の実現に向けた取り組みについて、今回毛塚さんは、① 行政効率化、② 産業創出、③ 行政プロセス変革について説明してくれた。

① 行政効率化

19部署でRPA(AI X OCR)を導入し、80%の対象業務削減に成功したという実績をもつ。 RPAは、Robotics Process Automationの略で、簡単に説明すると「ソフトウェア型のロボットが定型作業を代行・自動化する概念」を指す。 行政は、枠が決まっていて繰り返し行う業務が多いため、RPAの余地が大きいそうだ。

財務省出身の毛塚さんが着目したのは、市民税課と市民窓口課。前者は、人口の流入が起こる3‐4月などの繁忙期は月100時間超の超過勤務が発生していたそう。 RPA導入による業務削減率は、市民税課は79.2%(削減時間 336時間26分)、市民窓口課は83.3%の(削減時間 70時間50分)を達成。

成功要因の一つは、RPA導入のシナリオ作成をベンダーではなく、現場の人が担当したこと。 ベンダーによるシナリオ作成は、ベンダーが業務を理解することから始まるため、現場の人へのヒアリングから始まるが、ヒアリングに業務時間を割いて応じなくてはならないため、現場からは嫌がられる。 現場の人が主体性をもってRPAに取り組んだことによって低価格で実施できただけではなく、急速に変化する業務にも対応できる仕組みが出来上がった。

特に素晴らしいなと思ったのは、RPAによって業務時間の構成比が変わり若手活躍の機会が増えていくという効果だ。若手ほどRPAでリプレイスされやすい業務に配属されているからだ。

価格面においては、行政におけるRPAは初の事例であったことから、ベンダー側か無償で対応してくれたそうだ。もちろん、つくば市内でも実証実験以降は予算を確保して有料。 他の地公自治体でも横展開できるように、中央政府からの補助金制度も整備されるほど全国に影響を与える取り組みになった。

② 産業創出

つくば市の産業創出政策の背景には、1)若年人口流出・ベッドタウン化、2)雇用におけるミスマッチの多さ(有効求人倍率2.7)、3)他自治体と比較して税収全体に占める法人市民税収の低さという課題があった。 リサーチパークモデルでありながら、鶴岡市とは異なり、中核都市的な規模を持つつくば市の都市類型を最大限生かせる施策が考えられた。

一つ目の施策は、スタートアップ推進室を設し、創業を促進すること。 もう一つは、研究シーズの実生活への応用を目指す社会実装トライアル支援事業。こちらを実現するために、新たな予算獲得方法が編み出された。具体的な案件は決めずに、5件分の社会実装を支援する、という枠だけ予算をとる、というやり方だ。こうすることで、予算プロセスの前後関係が逆転して、社会実装案件が決まってから翌年度予算を要求する他の自治体よりも1年早く動けるようになった。

Kezuka-san LEBEL

成功例の一つとしては、ドクターシェアリングアプリのLEBERがある。初期のモニター集めを円滑にするため、行政(つくば市)が市民のモニター集めに協力して実証実験が実現。市が申請に協力し内閣府の「近未来技術社会実装事業」に採択されるまでに成長。 行政にしか出せないスタートアップへの価値があることの証明になった。

他のユニークな取り組みとしては、Thursday Gatheringという定期的なミートアップの開催や、ベンチャーキャピタルとの連携。つくば市にはVCがいないという悩みが解決に近づいた。 私が特に感動したのは、ケンブリッジ大学のイノベーションセンターCICとの無償席交換実現、およびスタートアップビザ認定開始だった。日本の都市がシンガポールや香港などのスタートアップ拠点と対抗していくために必要不可欠な施策として数年にかけて提唱してきていたからだ。

このような取り組みの成果は数値にも出てきており、新規創業数が伸びているだけではなく、法人市民税収もこの3年間上昇しています。今後はつくば駅周辺でのイノベーション創出環境を整備しながら、「PoCから社会実装へ」というコンセプトの実行に向けてさらに新しい取り組みが計画されているようだ。

③ 行政プロセス変革

アジャイル型行政の実行に向けて欠かせかったのが、新しい面白い取り組みが多数の意思決定レイヤーにはじかれてしまわないように、いかに予算プロセスをシンプル化するかだった。

基本的な方針は、行政が無償で提供できるサービスを提供し、次につながるような実証実験の一次例目を実現しに行くこと。 この時、対象となる取り組みを事業と呼ばずに実証実験に位置付ける柔軟性がポイント。事業という名前がついた瞬間に、失敗ができなくなってしまうからだ。

他にもガバメントクラウドファンディングを行うなど非税収の資金調達で工夫をした。

「非税収の資金調達」は、行政職員の専門領域ではないため、外部人材を採用した。アドバイザー制度を新設するとともに、行政初のファンドレイザーを採用した。アドバイザーについては、勤務という条項を外して、海外からも従事できるようにした代わりに、Job Descriptionをしっかり整備することで説明責任を持たせた。また、採用上限年齢を撤廃し、現在は民間経験者の50代での採用例もあるという。

行政のフットワークを軽くする工夫を行う一方で、どのような組織もToDoを示さないと動きにくいということで、就任後2か月でロードマップを策定した毛塚さん。 策定後は、実体に応じて修正することも行なっているそうだ。もちろん、理由を記載して公表することを条件に。

終わりに:つくば市の現在地

行政効率化・産業創出・行政プロセス変革の上記3つの観点から、いままでやってきたことを年ごとに一枚の表にまとめて来てくれた毛塚さん。

考えこまれた政策が一歩ずつ実施されていく過程が垣間見れるような本当に美しい表で、私は本当に感動しました。

特筆すべきは、成果が出た施策は農業や福祉などの他の分野や他の地方自治体に横展開しようとしている点でした。

福祉の分野でも、こども食堂や学習支援を市内全域で実現するための寄付を活用した資金調達方法の開拓、委託ではない共同事業方式によるNPO毎の特徴が活かせる事業方式、農業の分野での若手農業者座談会(エコシステム形成)や課題解決講座(アクセラレーションプログラム)といった農業へのスタートアップ政策の横展開、廃校へのロボットの実証実験場の整備などによる周辺部とスタートアップの接続など、これまで取り組んで来た他の分野での取り組みについて紹介してくれた毛塚さん。今後実現していきたいことについても具体的に語ってくれました。 「Getting things doneとゆるさの絶妙バランス」を取りながら、やり遂げてくれるんだろうな、と信じてやまない。

【ご参考】毛塚さんのインタビュー記事