こんにちは。 10月9日にMyData Japanで開催させていただいたNetflixドキュメンタリー「グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル」の上映会&ディスカッションについてレポートします!
イベントハイライト
上映会前には、実際にこのドキュメンタリーに登場しているPersonalData.IOのCEOでMyData Globalの理事であるPaul-OlivierとMyData GlobalのGMであるTeemuから鑑賞のポイントを解説してもらい、
上映会後には、エキスパートによる問題提起/問題点解説の後、個人情報の収集・処理の現状がどうあるべきかについて参加者の皆様でディスカッションしました。
ドキュメンタリー要旨
「グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル」は、2016年のアメリカ大統領選においてCambridge Analyticaという選挙キャンペーンエージェンシーがFacebookなど大量の個人データを用いて、個人の投票行動を左右するようなターゲティング広告をうっていたことがあばかれる様子を描いています。
もう少し具体的に言うと、Cambridge Analyticaは、BigDataに心理学の要素を組み合わせ、投票先が決まっていないニュートラルな投票者を特定し、彼らにトランプに投票したくなるような広告を見せていたのです。 そして、このような行動操作をアメリカ大統領選に限らず、イギリスのEU離脱をかけた国民投票時や世界中の国の選挙でもやっていました。
Netflix Japan杉原様からひとこと
Netflixドキュメンタリーの上映会ということで、Netflix Director and Head of Public Policy in Japanの杉原佳尭様からメッセージをいただきました。
①数か月前までGoogleで執行役員を務められていたご経験から、AdTech業界における個人データの利用が利益を最大化する目的で使用されていること、②Google以前は政治活動をされていたご経験から、程度の差はあれ日本の政治においてもこのドキュメンタリーのように個人データを用いた選挙キャンペーンが行われていること、についてお話下さいました。
雑談ですが、Netflix Japanオフィスにはカフェテリアがあり、Google並みにランチが美味しいとおっしゃっていました。
ドキュメンタリー出演者Paul-Olivierからのメッセージ!
実際にこのドキュメンタリーに登場しているPersonalData.IOのCEOでMyData Globalの理事であるPaul-Olivier DehayeとMyData GlobalのGMであるTeemu Ropponenがリアルタイムでビデオ通話に参加し、「グレート・ハック」のポイントを解説してくれました。
セキュリティにはヒューマンエラーが付き物であり、このドキュメンタリーの特徴の一つは個人データの利用に関わる人物の心情の変化が細かく描き出されている点にあります。以下が着目すべき5人の登場人物です。
「型破り」な3人
このドキュメンタリーで面白いのは、中心的人物の3人が、普段は個人情報周りの議論に普通なら出てこない立場にいる「型破り」な方々である点です。
- 1人目は、Cambridge AnalyticaでDirectorを務めていたBrittany Kaiser。彼女の役割はとても紛らわしく、どう捉えるかは視聴者次第。
- 2人目は、教授のDavid Carroll。自分にまつわるデータを開示してもらうためにUKでCambridge Analyticaに対して裁判を起こします。
- 3人目は、Paul-Olivier自身です。彼は、普通の市民でありながら、個人情報に関する知識があり、数学者としてのバックグラウンドを活かして、Cambridge Analyticaがやっていたことを科学的に説明しようとします。
「職業通り」な2人
- 1人目は、David Carrollの弁護士を務めたRaul Navik。2018年にイギリスにおいてBest Human Rights Lawyerに選出される。
- 2人目は、ジャーナリストとして本件を取材し続けるジャーナリストのCarole Cadwalladr。本件をきっかけに数々の賞を受賞。 こちらの2人は、前述の3人とは違い、本件に関わるインセンティブがもともと存在したのが特徴的です。
MyData Global GM Teemuからのメッセージ
「この重要なイベントを開催してくれてありがとう。MyData2019や以前のカンファレンスに来てくれたすべての人に感謝しています。あらゆる活動に参加してMyDataの発展をサポートしてくれてありがとう。MyDataにはムーブメントとして数年の歴史がありますが、 MyData Globalは組織として金曜日に1周年を迎えます。日本や他のアジア諸国とのコラボレーションが非常に重要であるため、2020年にはMyDataAsiaを計画しています。本質的に、ドキュメンタリーは「ネガティブ」ですが、私たちはよりよいポジティブなデータの将来に向けて一緒に活動することができ、そのためにMyDataが存在するのです!」
"Thank you for organising this important event. Thank you to all who came to MyData 2019, or the previous conferences. Thank you for supporting MyData journey, by taking part in all kinds of activities. MyData has many some years of history, but as MyData Global, we turn 1-year on Friday. MyData Asia is planned because we see collaboration with Japan and other Asian countries as extremely important. In essence, the documentary is “negative”, but we CAN work together for that better, positive data future, that’s why MyData exists!"
お二人からのメッセージ動画の全編はこちらでご覧ください!(日本語訳付きです) ちなみに彼らは、この問題がニュースになるはるか以前の2017年から着目していたそうです。
解説
MyDataからの問題提起
株式会社インテージ 伊藤直之さんがMyData GlobalからのBLTS+Cの観点からの問題提起をし、MyData 2019 でのスクリーニング・パネルディスカッションについて報告してくれました。
公正な個人情報エコシステムを構築するためにはBusiness, Law, Technology, Society(BLTS)の4つの関与が欠かせないとMyDataは言い続けてきましたが、最近はこの4つを支えるCultureも欠かせないということで+Cを提唱しています。こちらの記事がとてもよくまとまっています。
実はこちらのドキュメンタリーは、先月ヘルシンキで開催されたMyData2019でも上映されており、その時もかなり盛り上がったそうです。
日本における個人情報保護の在り方
武蔵大学社会学部教授 庄司昌彦先生が日本における個人情報保護の在り方について解説してくださりました。
庄司先生も前々からCambridge Analyticaに注目していた人物の一人で、こちらのレポートでも言及されています。(怖いくらいよくまとまってる…) Cambridge Analyticaが数多く存在するエージェンシーの一つでしかないことも事実です。
日本がEU/US/中国とは違う、BLTSのバランスのいい個人情報エコシステムを作れるポテンシャルがある、ということには私もとても共感します! ヤフースコアの件の火種が庄司先生だったことにはびっくりしましたが(笑)
ディスカッション
個人情報の取扱い方革命は、ひとりひとりが自分のデータがどう管理されてほしいかの考えをもつことからはじまると思っているので、ディスカッションの時間を設けてみました。
グループディスカッション
最初は3-4人のチームになって、7分ずつ「個人情報をどれくらいコントロールしたいか」、「個人情報がどのように処理・利用されてほしいか」についてディスカッションしてもらいました。
ディスカッションの内容を共有してもらったところ、自分のデータはやはり自分でコントロールしたい、処理・利用方法が倫理的である保証をするにはどうすればいいか、自分のデータが使われるたびにアラートが欲しい、自分のデータが使われてもいいと思う目的とダメだと思う目的がある、など興味深い意見ばかりでした。
Next Step
Paul-Olivierのビデオメッセージにもひとりひとり「Next Step」を考えてほしいとあったので、全員で輪になって「Next Step」を語りました。
会社の業務で位置情報を含む個人データを扱う参加者が多く、普段の業務から考え直したいという声が多数でした。他にも、娘がスマホを持ち始めたのでこの話をしてみたい、この問題について発信していきたい、MyDataについて理解を深めたいなどがありました。 私は、ブログにまとめる!と宣言し、実際にまとめたので、一旦Next StepはDONEです!(笑)
開催の背景
Cambridge AnalyticaのスキャンダルはアメリカでFacebookアカウントを削除する人が相次ぐほど、世界的にニュースになっていたため、わたしも知っていましたが、ここまでのスケールで操作されていたとは知らず、このドキュメンタリーをみてかなり衝撃を受けました。
Yahoo!スコアやリクルートキャリアなど日本でも個人情報利用に関係するスキャンダルが浮上するようになってきている中、日本でももっと多くの人に知ってほしいと思い、MyData Japanメンバーにスクリーニングを提案し、快諾いただいたというのが背景です。
Next Stepを参加者が共有しているときに「ここまでひどいとは思わなかった」とおっしゃっている方がたくさんいて、開催してよかったと心から思いました。
運営のサポートをしてくださった、インテージの伊藤さん、武蔵大学の庄司先生、DataSignの太田さん、富士通のDixon、本当にありがとうございました! 同じミッションを共有するこのチームが本当に大好きです!