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エストニア大統領が語るデジタル国家

2019-10-26 09:00

先日、エストニア大統領のレクチャーを聞いて、質問する機会をいただき、デジタル国家の在り方について新しい学びが多くあったので、記事にまとめます。

個人的に一番ぐっときたのは、「デジタル国家はテクノロジーではなく、その周りの丁寧に作りこまれた法体系である」という発言でした。(原文の方が美しいので:"Digital government is not about technology but carefully drafted legal system around it")

これは、私の所属しているNGO, InternetBar.orgが15年間に渡って伝え続けてきた、なかなか伝わらないメッセージを的確に表現していたのです。

もう一つのキーメッセージは、大統領が、自分達よりも発展している国家に、追いつく方法を聞くと、「真似するのがいい」と返ってくるが、真似をして成功した例はない。とおっしゃっていたこと。It's all about optimizing a service flow, which is unique to each country. 日本も他国を見る量を減らして、自国の政策に自信を持つべきと思います。

以下、大統領の見解を質問に答えていく形式でハイライトしていきます。

4 #エストニア大統領に質問する私

Digital Identityを用いて受けられるサービスがエストニアで増えた理由

簡単に言うと、アイデンティティーライフサイクルの手間暇が最低限に抑えられているから、ということでした。

例えば、Digital Identityが付与されたときに、ルクセンブルクでは、実際に役所に行ってDigital Identityを提示して、物理的な自分(physical self)と結び付けなければなりません。一方、エストニアでは役所に行く必要はなく、エストニア国民の大半は役所がどこにあるのかさえ知らないそうです。

また、Digital Identityは有効期限があります。エストニアでは、更新された際に自動的に新しいIdentityのみが認証されるようになりますが、ルクセンブルクでは、システム上、上手く切り替わらず、新しいIdentityが拒否される期間もあったりするらしいです。

エストには仕組みが国民ドリブン(Citizen-Driven)で、プライベートセクターで導入されたことをパブリックセクターでも導入するように国民が求めるらしい。 これは、一律20%の税金制度があり、電子政府の運営が黒字化しているエストニアならではの現象だとも思います。日本もこうなればりそうですが、、

電子政府のセキュリティはどのように担保しているのか

こちらは、私がした質問ですが、会場の反応から、気になっていた方が多かった様子。気になる回答は、、

セキュリティといっても、するべきことは電子化したほうが現在に管理手段である紙よりも安全であることを証明するだけよ、とばっさり。

この時、透明性を上げることがセキュリティ担保にもつながるとのこと。すべてのログが見れると、無断アクセスが可視化され、法的・技術的な対策を打つことが容易になる。 ブロックチェーン業界の人は、猛反発しそうですが、インターネットの匿名性低下がセキュリティ向上には必要と明言。

あとは、多要素認証もポイントの一つ。 カード状のDigital Identityに加えて、SIM(=携帯)自体がIDになるモバイルIDやアプリベースのスマートIDと組み合わせることでセキュリティを強化。

ただ、誰にも予測できない、データベースを一瞬で破壊する可能性のある自然災害は一番怖い、と最後にボソッと。 名言はしませんでしたが、世界各国にあるエストニア大使館にデジタルデータベースを置いて、そこでデジタル化された情報のコピーを保存している、という噂もセキュリティ強化の一手なのかと。

国内に関わらず、国際社会でも「法体系を丁寧に作りこむ」努力をしているのか

ここは、エストニアのようにDigital Identity周りに丁寧な法体系が存在しない国でDigital Identityプロジェクトをやってきており、法的担保として国際規格化に取り組んできた私として非常に興味があった部分だったのですが、国際的な法整備に特に力を入れているわけではなさそう。

ただ、EUの規制はエストニアにおける影響力が高いため、eIDASが制定されたときはとてもハラハラしたそう。エストニアの電子政府のセキュリティ基準よりも低いものがEU法として成立してしまったら、それに合わせるのかというジレンマが発生してしまうから。 でも、エストニア以外にここまでしっかりとして電子政府の仕組みを持っている国がEUに他に存在しなかったため、エストニアがeIDASの作成にがっつり入りこめたため、この心配は無駄に終わったそう。

ただ、エストニアの基準がEU基準になってしまったため、新しく電子政府化しようとしているEUの国で、こちらの基準を満たすことができずに失敗してしまった例もあるのだとか。

2 ラウルさんの背中w

政府を電子化したことで職が失われたことに対する抵抗はなかったのか

マクロン仏大統領が着任後に首相のÉdouard Philippe(私の大学時代のフランス語の先生の息子さん!)をエストニアにデジタル政府について調査するために派遣した際にされた質問だとか。 労働組合の力が強いフランスらしい質問。

エストニア大統領のご名答は、政府サービスの効率性を上げること(providing efficient government service)と失業対策(preventing people from losing jobs because of IT)は異なる2つの問題であるため、同じ解決方法を探してはいけない、とのこと。

実際にエストニアでは、政府をデジタル化したことで6割の職が失われたそう(ここでフランス首相の顔が青ざめた。でも6割って相当ですよね。私の聞き間違いではないといいのですが)。ただ、それとは別に、教育に力を入れたいなど、失業対策はばっちり打っていたのだとか。フランスも労働法改革しようとしているではないですか、恐れずに政府の電子化もするべきですよ、と突っ込んだそう。

ちなみに、私がフランスに住んでいた時の経験談から言うと、何回も役所に行かなくてはいけなかったり、お昼休みが長いから行っても空いてないため出直さないといけなかったり、フランス語ができないとかなり手こずったり、とかなり苦労したので、効率性を上げる余地は十分あると思います、、

デジタル・ディバイド:高齢者向けDigital Identityはどうするか

質問の背景:日本でマイナンバーカードの議論をするときに高齢者がデジタル技術の使い方を知らないから(デジタル・ディバイド)導入が遅い、という見方もあるが、エストニアでは、どう高齢者向けにDigital Identityを導入したのか

回答:前提として、エストニアがIdentityの電子化を始めたのは2000年代だったため、インターネット普及率はまだ低く、全員がデジタル技術を使えなかった。 パソコンがあったのは、大企業や政府機関のみだったそう。

ただ、高齢者という文脈で言うと、「バスを使って役所に行って対面で様々な法的手続きを行うよりも、村の図書館にあるパソコンでデジタルに手続きを行わせる」という方針を導入。 ちなみにエストニアは1996年からオンラインバンキング、、

訴求方法としては、高齢者は時間に余裕があるので、バスに乗る時間が短縮されるよ、という見せ方よりも、デジタルバンキングは無料だけれども、対面で行くと手数料とかが発生するよ、というコスト削減面が有効だったとか。

こちら、日本の高齢者は貯金などお金をお持ちの方が多いので、そのまま適用できるわけではないと思いますが、東ヨーロッパの高齢者はかなり低額の年金に頼って生活しているので、上記のメッセージングがかなり有効だったのは容易に想像がつきました。

エストニア国民は政府を信頼しているわけではない

質問の背景:マイナンバーカードが日本で普及しない原因の一つに、国民が政府を信頼していないから、という見方もある(本当⁉)が、エストニア政府はどのようにして国民の信頼を勝ち取ってDigital Identityの普及率を100%近くにもって行ったのか。

回答:エストニア国民は自国政府を信頼しているわけではないですよ。 ただ、Digital Identityが機能するのは、政府が国民にした約束を守っているからです(=いわゆる一種の社会契約)。 例えば、政府が国民に一度聞いた情報は二度聞かないと保証し、実際に二度聞かれた場合、国民は答える義務はなく、一度目に聞いた際に提供された情報を探しに行くのは政府の責任んだとか。

日本政府はマイナンバーカードを作った際に日本国民にどのような約束(Promise)をしたのでしょうか、というさりげない一言に考えさせられました。

estonia

Next Steps

エストニアの電子政府の次のステップはエストニア大統領にもわからない(もしくは言いたくない)そう。それはAI化かもしれないし、他のなにかかもしれない。

大統領に直接質問する機会をいただけて本当に光栄でした。 安倍首相に2時間、他国の国民向けに原稿なしでプレゼンして、とお願いした場合、何を話すのか気になりますね。

余談

エストニア大統領のお連れ様の中に紙が全部紫のかたがいらっしゃったので、私も自分のピンクの髪に自信を持とうと思いしたw